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2008年7月29日 (火)

『時の扉をくぐり/甲田 天』(BL出版)

画家ゴッホが、時空を越え、江戸に生きる絵師、歌川広重の前に姿を現したら…という設定で書かれた作品。

油絵と浮世絵、まったく違う手法で絵を描いて生きる2人だが、画家という生き方を選んだ人同士の葛藤、喜び、苦しみを言葉が通じなくても共有していく。

ゴッホは、実は、死後、広重の前に姿を現しているという設定なのだけれど、死んでまでなお、自分が影響を多大に受けた日本の浮世絵師に会いたいと念じ実現させた、画家の執念がすさまじい。

出てくる登場人物の誰もが、歌川広重にしても、その弟子の佐吉にしても、ライバルの葛飾北斎にしても、修羅の道を歩むしかなかった者たちに見えてくる。

ただ、佐吉という若い弟子がストーリーテラーになっているので、爽やかさがどこかに漂っている。

通辞(通訳)で雇われた、又三という男も、やがては広重やゴッホに影響され、自分が進むべき道を定めていく。

人と人とが出会うことで、お互いに影響しあい、自分を見つめなおしていくというのも、この物語が言いたいことのひとつなのだろうけれど、ゴッホが幽霊の姿となってみんなの前に姿を現しているというのが、少しだけ残念だ。


広重も北斎も、佐吉も、又三も、旅が終われば、それぞれの生きる道で生きていくことができる。

でも、ユーレイゴッホだけは、違う。

もっと早く、彼を広重たちに会わせてあげたかった。

物語の中で、自分が生前に苦しめた家族や友人への謝罪の言葉が出てくるのだが、それも、死んだ今になっては彼らに伝えるすべもないのだから。

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2008年7月27日 (日)

『たたみの部屋の写真展/朝比奈蓉子』(偕成社)

表紙の淡い水彩画にひかれて読みました。

中学に入学したばかりのタモツとユウイチは、大きくなりすぎてきたペットのカメをどこで飼おうかと思っていました。

やがて、空き家の庭に池を掘り、学校帰りにエサを持って行くのが習慣となっていきました。

ところが、空き家と思っていた家には、年老いた女性と、なつみさんというその娘さんが一緒に住んでいたのだった。

おばあさんは、タモツを早くに亡くした自分の息子だと思い込んで、「とおる、とおる」と呼びかけるのに、なつみさんに対しては、「あの女」と、冷たい態度。

それが認知症だと知るタモツは、とまどいながらも、おばあさんやなつみさんと交流を深めていく。

なつみさんとおばあさんの親子関係が、どこでどう複雑にからまってきてしまったのか、とおるくんはなぜ早くに亡くなったのか…おばあさんと深く関わりあえばあうほど謎は解けていきます。

なにごとも人任せだったタモツが、しだいに自分の頭でものを考えていく様子は爽やか。

今の時代、認知症という症状はもうかなりポピュラーなのかもしれないけれど、家族としてその人にどう接していくかという問題はあまり語られていないと感じます。
文学は、それを語っていくことができると思います。

こういう作品は、きっとこれからも増え続けていくだろうと思うのでした。

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2008年7月22日 (火)

『菜の子先生はどこへ行く?/富安陽子』(福音館書店)

菜の子先生シリーズも3冊目ですね。
人気シリーズですね。

菜の子先生を読むと、わたしは、子どもの頃に読んだ、トラヴァースのメアリー・ポピンズを思い出します。

ツンとしてて、冷たそうで、クールなことを理路整然と言うんだけれど、子どもたちに対する愛情は人一倍という、とても素敵な家庭教師の女性。

菜の子先生は、神出鬼没で、「運がよければ」会える、謎の先生。

子どもたちの言葉使いや態度に、バシバシとダメ出しをする厳しい人ですが、子どもたちが助けを求めている時、そっとやってきて、そっとアドバイスをしてくれる、本当はとても心優しい人。

何者なのか、誰も知らないけれど、子どもたちは、いつか自分の小学校に菜の子先生が現れないかなと、待っています。

愛情を注いでくれる人を、子どもたちはちゃんと知っているのですね。

甘やかしてくれる人、じゃなくて、本当に愛情を注いでくれる人、を。

そして、その愛情の受け止め方を、富安さんの作品はそっと教えてくれています。


ユーモアあふれるファンタジーの中に、胸にしみこむ温かい心が詰まっています。

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2008年7月13日 (日)

『乙女なげやり/三浦しをん』(太田出版)

三浦しをんさんの、乙女の日常エッセイ集。

…っていうか、乙女?

違う気がするけど。笑


かなりの妄想ぶりに、読者のわたしも、若干、引きます。笑

大好きなハリウッド俳優との新婚生活を、「勝手に」妄想したり…とか。

妄想も、ここまでくれば、もう、アッパレ!とすら思います。

いや…やっぱり、引きます。


面白いんだけど、でも、何だかだんだん痛々しい気持ちになってくるのは、なぜでしょうか?笑

三浦しをんさんの己の内面への激しいツッコミぶりに、何もそこまで己に厳しくしなくても…と、思ったりします。

その激しいツッコミぶりを、世間や社会情勢へ向けてみてはどうでしょうか?と、ちょっと思ったりしました。

でも、そうすると、三浦しをんのエッセイじゃなくなるのかなぁ…。

オリジナリティって、難しいね。

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2008年7月11日 (金)

『5年3組リョウタ組/石田衣良』(角川書店)

初めて石田衣良の本を読みました。

こんなに人気でこんなに流行っていて、映像化もされている人の本は…あまのじゃくなので、かなり時が経たないと読まないあくびです…。

しかも、テレビ等で拝見する石田衣良さんのビジュアルは、インテリおしゃれでちょいハンサムで、トークも上手だし、いかにもモテそうな作家という感じなので、余計に、あまのじゃくなわたしは読みたくありませんでした。笑

すいません。

結局、読めばおもしろいんですよね。

人気あるだけの事はあるなぁって、誰の時もたいがい思います。

通勤列車の中で、涙が出そうな場面もあったほどです。

意外と、直球な作風なことに驚きました。

この作品が、小学校を舞台にした、若い小学校教諭の男性を主人公にしているからかもしれませんが、わりとストレートなメッセージ性の強い作品でした。

裏表のある人間社会で、まっすぐに純粋に素直に、ややもすれば天然ですらある、25歳の教員が、クラスや学校、教員の間で起こるトラブルの数々を、その朴訥な性格だけで切り抜けていくという、現代版、『坊ちゃん』みたいな作品です。

ある意味、ファンタジーなのかもしれません。

でも、別に、いいじゃないかと、読みながら思うわたしがいました。

リアルに、教育問題を提議していく作品ではなく、子どもたちの未来はひたすらだいじょうぶなんだと言い切るその姿勢は、かえって清々しくすらありました。

現実に、学校現場で働いている方々の中には、そんな甘いもんじゃない!と、思う人もいるかもしれないけれど、でも、希望を持たなくてどうするんだと、石田衣良さんは言っている気がしました。

こういう作品があっても、いいんじゃないかと、わたしは思ったのでした。

現実の問題は、すぐには解決できないことがたくさんあるけれど、でも、それなら、読者の心に希望を一滴たらしてあげて、昨日よりは今日、少しだけでも元気に生きる勇気を与えるのも本の役割なんじゃないかと思うのでした。

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2008年7月 9日 (水)

『図書館戦争/有川浩』(メディアワークス)

職場で大人気のこの本、ようやく読みました。

もう、世の中ではアニメにもなっているくらい大人気だったんですね。

全然知りませんでした…。

しかも、5巻まで出ていて、この間は番外編まで出てたし。


人気にたがわず、おもしろかったです。

まず、設定がとてもおもしろい。

現在の日本の図書館制度ほぼそのままで、そして、それプラス軍事訓練が行われているという設定。

訓練の様子は、自衛隊の雰囲気でしょうか。

メディア規制法という法律が施行されているこの物語の中で、言論の自由はかなり規制されています。

そして、図書館という施設は、そのメディア規制法に抵触すると指定された「有害図書」狩りが始まると、警察には頼らず、自力で、図書館とその所蔵資料を守るという設定。

だから、館内で働く司書と、軍事訓練を受けている、図書士という別々の人事があるという設定。

で、この物語の主人公は、女子高生の時に、自分が買いたかった児童書を、暴徒から守ってくれた図書士にあこがれ、自ら志願して図書士に入隊した初の女性図書士という設定。

限りなくエンターテインメントな文章と、テンションの限りなく高い会話でストーリー展開していくので、若干、疲れるんですが(笑)、実は、軍事訓練や、戦争という状況を引けば、実際の図書館の日常に限りなく近いと思います。

だから、この小説、限りなくブラックユーモアにあふれています。

言論の自由とは何か。

書物を焼く国は、いずれ人を焼くという図書士のセリフ。

そして、「良書」を守り、「悪書」を追放するためには、司書の1人や2人を殺害してもかまわないと逸脱していく暴徒たち。

くだけた文章で、けっこう深いことをさらっと言ってのけているエンターテインメント小説です。

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2008年7月 2日 (水)

『にいさん/いせひでこ』(偕成社)

画家ゴッホとその弟の物語。

いせひでこさんの文章は、無駄なものが何一つありません。

どの文も美しくて胸をうちます。

一編の映画を観るような美しさにあふれています。


兄と弟の愛がとても切なくて涙が出ます。


きょうだいっていいなぁ…と、わたしもきょうだいを大切にしようと改めて思う気持ちになります。


―「絵が叫びであったことをきみにあやまりたい。
  ぼくは目に映ったものに夢中になり、
  人生に対して無防備すぎた」―

この文がとても美しくて切なくて、何度も読み返しました。


もちろん、絵もとても美しい。

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