『時の扉をくぐり/甲田 天』(BL出版)
画家ゴッホが、時空を越え、江戸に生きる絵師、歌川広重の前に姿を現したら…という設定で書かれた作品。
油絵と浮世絵、まったく違う手法で絵を描いて生きる2人だが、画家という生き方を選んだ人同士の葛藤、喜び、苦しみを言葉が通じなくても共有していく。
ゴッホは、実は、死後、広重の前に姿を現しているという設定なのだけれど、死んでまでなお、自分が影響を多大に受けた日本の浮世絵師に会いたいと念じ実現させた、画家の執念がすさまじい。
出てくる登場人物の誰もが、歌川広重にしても、その弟子の佐吉にしても、ライバルの葛飾北斎にしても、修羅の道を歩むしかなかった者たちに見えてくる。
ただ、佐吉という若い弟子がストーリーテラーになっているので、爽やかさがどこかに漂っている。
通辞(通訳)で雇われた、又三という男も、やがては広重やゴッホに影響され、自分が進むべき道を定めていく。
人と人とが出会うことで、お互いに影響しあい、自分を見つめなおしていくというのも、この物語が言いたいことのひとつなのだろうけれど、ゴッホが幽霊の姿となってみんなの前に姿を現しているというのが、少しだけ残念だ。
広重も北斎も、佐吉も、又三も、旅が終われば、それぞれの生きる道で生きていくことができる。
でも、ユーレイゴッホだけは、違う。
もっと早く、彼を広重たちに会わせてあげたかった。
物語の中で、自分が生前に苦しめた家族や友人への謝罪の言葉が出てくるのだが、それも、死んだ今になっては彼らに伝えるすべもないのだから。
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